<読書>『芸術と科学のあいだ』福岡伸一著

芸術と自然の間、そして写真と時間の関係

この本の題名は『芸術と自然のあいだ』と言ってもいいのではないでしょうか。

(127ページ)古来、おそらく私たちはしばしば立ち止まって自然を眺め、耳を澄ませた。あるいは空を見上げた。そして、そこに密かなシンボルを読み取り、豊かなイメージを喚起させられた。詩は言葉の中にあるのではなく、自然の中にある。アートはキャンバスの中から生まれるのではなく、キャンバスに差し込む光の中にあらかじめ含まれている。

そして、わたしが趣味にしている写真の本質についても書かれています。

(225ページ)私たちが網膜の底で無意識的に感じとっていた見えない光の記憶を呼び起こしてくれている。

(229ページ)今このときに留めないと永遠に失われてしまう決定的に一回限りの瞬間を焼き付けることを可能にした。(中略)一枚の写真には、そこに至る時間とそこから始まる時間が内包されている。(中略)止められていた時間が、写真によって再び動き出す契機を与えられることになったのだ。

部分的に書き出すと抽象的でわかりにくいとは思いますが、心に訴える写真とはどんなものかが見えてきます。

りすのいえ

相補性と動的平衡 昨日の私は今日の私ではない

(193ページ)互いに他を規定するような関係性のあり方を「相補性」と呼ぶ。私たち生命体において、細胞にせよ、細胞を作るさらに小さい分子にせよ、その構成成分がたえまない更新作業を繰り返しながらも、生命体が全体としてのバランスを保ちうるのは、細胞間、分子間に相補性があるからだ。

(247ページ)今日、私を形作る粒は明日には壊されて排出され、食べ物に含まれる新しい粒に置き換えられる。つまり昨日の私は今日の私ではなく、久しぶりにあった人との挨拶は「お変わりありまくりですね」が正しい。(中略)つまり変わりつつも不変を保つのが、動的平衡である。

気が遠くなるような46億年という時間の中で変わりつづけ、今がある。生物が美しいわけが理解できます。よかれと思って努力し進歩し続けるヒトも、もしかしたらいずれは地球上から姿を消すのかもしれませんが、生まれたからには生を全うするのが生き物としての使命なのでしょう。

本の紹介『芸術と科学のあいだ』

http://www.kirakusha.com/book/b213942.html
福岡伸一 著
木楽舎
2015/11/30 発行

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